前衛的な問題 (冒頭部分)
吉本隆明/初出「短歌研究」(昭和32・5)
花田清輝が『群像』に今度は三橋美智也の流行歌、お次は競馬競輪といった具合にばかに愉し気にほっつき歩きながら「大衆のエネルギー」を論じている。
わたしは花田という思想家を日本のサン・シモンともいうべき北一輝の衣鉢をつぐ当代まれな体系的な思想家だとおもって高く評価してきたが、この連載物はいささかいただきかねた。日本のマルクスはまだ生れない段階だから、別段高のぞみをしているわけではない。また、おれが飢えているのに花田の奴はミイチャン・ハアチャンと一緒になって流行歌にうつつをぬかしたり、馬券など買って悦に入った話をかきとばして稼いでやがると憤慨して云うわけでもない。また、花田が若い批評家や詩人に「彼奴をやっつけねばならん」などとけしかけたおかげで、武井昭夫とか長谷川竜生とかいったまんざら同類でないことはない青年が何をおもってかからみ出し、杉本春生などというどこから眺めても保守的反動といった舌足らずまでが「花田清輝もいっているように」などとせせり出たりするのが情けなかったためでもない。
花田がファシスト北一輝とおなじように大衆を内部からとらえようとしないところがむかむかしてならなかった。
(続きは書店または図書館にて...)
近現代日本文学史年表