乳母車 母よ―― ・ 淡くかなしきもののふるなり ・ 紫陽花(あぢさゐ)いろのもののふるなり はてしなき並樹(なみき)のかげを そうそうと風のふくなり ・ 時はたそがれ ・ 母よ 私の乳母車(うばぐるま)を押せ 泣きぬれる夕陽(ゆふひ)にむかつて 々(りんりん)と私の乳母車を押せ 赤い総(ふさ)ある天鵞絨(びらうど)の帽子を つめたき額(ひたひ)にかむらせよ 旅いそぐ鳥の列にも ・ 季節は空を渡るなり ・ 淡くかなしきもののふる ・ 紫陽花いろのもののふる道 ・ 母よ 私は知つてゐる ・ この道は遠く遠くはてしない道 ・ 「測量船」(昭和5)所収 ■ひとつ前にもどる