兵士の歌


穫りいれがすむと
世界はなんと曠野に似てくることか
あちらから昇り むこうに沈む
無力な太陽のことばで ぼくにはわかるのだ
こんなふうにおわるのはなにも世界だけではない
死はいそがぬけれども
いまはきみたちの肉と骨がどこまでもすきとおってゆく季節だ
空中の帝国からやってきて
重たい刑罰の砲車をおしながら
血の河をわたっていった兵士たちよ
むかしの愛も あたらしい日付の憎しみも
みんな忘れる祈りのむなしさで
ぼくははじめから敗れ去っていた兵士のひとりだ
なにものよりも おのれ自身に擬する銃口を
たいせつにしてきたひとりの兵士だ
おお だから……
ぼくはすこしずつやぶれてゆく天幕のかげで
膝をだいて眠るような夢をもたず
いつわりの歴史をさかのぼって
すこしずつ退却してゆく軍隊をもたない
……誰もぼくを許そうとするな
ぼくのほそい指は
どの方向にでもまげられる関節をもち
安全装置をはずした引金は ぼくひとりのものであり
どこかの国境を守るためではない
勝利を信じないぼくは……
ながいあいだこの曠野を夢みてきた それは
絶望も希望も住む場所をもたぬところ
未来や過去がうろつくには
すこしばかり遠いところ 狼の影もないところ
どの首都からもへだたった どんな地図にもないところだ
ひろい曠野にむかう魂が
……どうして敗北を信ずることができようか
かわいたとび色の風のなかで
からっぽの水筒に口をあてて
消えたいのちの水をのんでいる兵士たちよ
きみたちは もう頑強な村を焼きはらったり
奥地や海岸で 抵抗する住民をうちころす必要はない
死の穫りいれがおわり きみたちの任務はおわったから
きみたちは きみたちの大いなる真昼をかきけせ!
白くさらした骨をふきよせる夕べに
死霊となってさまよう兵士たちよ
きみたちのいない暗い空のあちこちから
沈黙よりも固い無名の木の実がはじけとび
四月の雨をまつ土にふかく射ちこまれている
おお しかし……
森や田畑やうつくしい町の視覚像はいらない
ぼくはぼくの心をつなぎとめている鎖をひきずって
ありあまる孤独を
この地平から水平線にむけてひっぱってゆこう
頭上で枯れ枝がうごき つめたい空気にふれるたびに
榴散弾のようにふりそそぐ淋しさに耐えてゆこう
歌う者のいない咽喉と 主権者のいない胸との
血をはく空洞におちてくる
にんげんの悲しみによごれた夕陽をすてにゆこう
この曠野のはてるまで
……どこまでもぼくは行こう
ぼくの行手ですべての国境がとざされ
弾倉をからにした心のなかまで
きびしい寒さがしみとおり
吐く息のひとつひとつが凍りついても
おお しかし どこまでもぼくは行こう
勝利を信じないぼくは どうして敗北を信ずることができようか
おお だから 誰もぼくを許そうとするな。



「鮎川信夫詩集1945-1955」(昭和30)所収


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