「赤光」 (冒頭部分)

斎藤茂吉/大正2・10



大正二年(七月迄)

 
1悲報来
ひた走るわが道暗ししんしんと堪へかねたるわが道くらし

ほのぼのとおのれ光りてながれたる蛍を殺すわが道くらし

すべなきか蛍をころす手のひらに光つぶれてせんすべはなし

氷室より氷をいだす幾人はわが走る時ものを云はざりしかも

氷きるをとこの口のたばこの火赤かりければ見て走りたり

死にせれば人は居ぬかなと歎かひて眠り薬をのみて寝んとす

赤彦と赤彦が妻吾に寝よと蚤とり粉を呉れにけらずや

嬰粟はたの向うに湖の光りたる信濃のくにに目ざめけるかも

諏訪のうみに遠白く立つ流波つばらつばらに見んと思へや

あかあかと朝焼けにけりひんがしの山並の天朝焼けにけり

(続きは書店または図書館にて...)



近現代日本文学史年表